ダブルバレルは、デジタルフォトフレーム「存在揮発額縁」を発表する。被写体の残り時間と連動して写真が透明に近づいていくこの製品は、本人の目にだけ通常表示が維持される網膜追従フィルターを搭載している。
製品概要
「存在揮発額縁」は、被写体の生体情報と連動し、写真内の姿が時間とともに透明化していくデジタルフォトフレームである。本人の目にだけ通常の写真として表示され続ける網膜追従フィルターを内蔵しており、死の1ヶ月前まで本人への通知は行われない。
提供する体験
家族が帰省したとき、リビングの写真の透明度を見て状況を理解する。言葉は交わされない。その沈黙の中に、この製品の機能は完結している。便利さや安心感を提供する製品ではない。
使用方法
製品を実家のリビングなど家族が集まる場所に設置する。被写体の登録と網膜データの初期設定を行うことで、本人と家族への表示が自動的に分岐する。設置後の操作は原則不要で、経過は額縁が管理する。
仕様
想定希望小売価格: 4,444,444円(税込)
・残り寿命72時間を切ると被写体部分が完全な透明背景(グレーと白の市松模様)になる
・稼働のための生体データ同期通信により、毎月使用者の実寿命を3時間分消費する
・本人が直視した時だけ不透明度100%に見える無駄な高精度視線トラッキング機能搭載
・重量444kg(壁掛け不可、床の補強工事必須)
開発秘話
弊社のハードウェア担当が、正月帰省の際に父親が「俺の体力はまだ30代のままだ」と豪語するのを聞き、そのみみっちい自己認識を物理的に粉砕したいと考えたことが発端です。開発過程で「本人が明確な死期を悟るとクレームが来る」という懸念が生じたため、本人の視界にだけは普通の写真として補正表示される網膜追従型フィルターを搭載しました。結果として、本人は死の直前まで「気のせいだ」と言い張り続け、周囲の家族だけが徐々に薄くなる姿を前に冷や汗をかくという、誰の得にもならない装置が完成しました。
試験協力者の声
「リビングの空気が最悪です」 父の透明度が先月から急激に上がり、現在は20%ほどしか見えません。しかし父本人は『最近の写真は画質が良いな』と見当違いなことを言っており、家族の誰もツッコミを入れられません。ただただ気まずい時間が流れています。
「故障でしょうか?」 最近、写真に写った自分の顔が急に薄汚れて見えます。妻や息子に言っても『気のせいだよ、いつも通りだよ』と目を合わせずに冷たくあしらわれます。初期不良だと思うので返品したいのですが、なぜか家族全員に止められています。
「誤作動による感情の無駄遣い」 祖母の写真が半透明になり始め、親族一同で覚悟を決めて葬儀屋の手配まで進めていたのに、昨日突然不透明度100%に復活しました。サポートに問い合わせたら『フレーム側の通信エラーによる一時的な判定ミス』とのこと。流した涙を返してください。
広報から
この製品を紹介する文章を書くとき、「思い出を大切に」という方向には持っていけないと最初から判断していた。商品の構造が、そういう着地を許さない。帰省した家族が写真を見て何かを察し、本人は何も知らないまま夕飯を食べる。その場面が成立することが、この商品の目的だと理解している。読んだ人が少し不快になり、それでも興味を持つなら、それが正しい反応だと思う。
企業広報責任者 白峰ミツキ