ダブルバレルは、「歴戦の手帳『使い込んだことにしておきました』」を2026年6月7日に発表した。本製品は、製造時点ですでに角がすり減り、ゴムバンドが伸び切り、コーヒーの輪染みが付いた状態で出荷される手帳である。中身のページは全て白紙のまま納品される。打ち合わせの席でカバンから取り出し机に置くことで、使用者は相手から「年季の入った手帳を長く使い続けている人物」として認識される。開かなければ、その印象は維持される。
製品概要
本製品は、製品出荷時点で経年使用に相当する外観加工が施された手帳である。角の摩耗、弾力を失ったゴムバンド、コーヒーの輪染みの3要素が標準仕様として付与されており、中身のページは全て白紙のまま提供される。使用者は「長期にわたり手帳を使い続けてきた人物」として他者から認識されるが、記録できる内容は一切持たない。
提供する体験
俺は打ち合わせに行くたびに、この手帳を机に置いた。毎回、相手が一回見た。「長いことお使いで」とか「年季入ってますね」とか、そういうことを言ってくれた。嬉しかった。問題は、次だ。「今日のお話、メモされます?」と言われて、開いた。真っ白だった。10年分すり減った角と、0行のメモが、同じ手帳の中に入っていた。3秒、間があった。長かった。それからも俺は打ち合わせのたびにこの手帳を出した。でも「メモされます?」と言われる前に、そっと閉じることを覚えた。だから今の俺は、立派な手帳を持った、何も書かない男だ。
使用方法
カバンから取り出し、打ち合わせの席で机に置く。このとき、表紙が相手から見える向きに置くことを推奨する。相手が「年季入ってますね」などの発言をした時点で、静かに手を添えて閉じる。本製品は付属ペンを同梱しているが、当該ペンはインクが充填されていない状態で出荷される。ペンを構えた場合、記述は行えない。メモが必要な場面では、別途筆記具を用意するか、スマートフォンを使用すること。本製品のページに書き込みを行った時点で、製品コンセプトは終了する。
仕様
想定希望小売価格: 39,800円(税込)
・出荷時点ですり減り年数10年相当(実使用0日)
・ゴムバンドの伸び率は『1万回開閉した人』を基準に工場で先行劣化
・コーヒー輪染みは2種から選択可(ブラック/カフェオレ)、ミルク跡は別売り
・中の罫線ページ全192ページ、印刷インク使用量1mlに対し白紙率100%
・付属のボールペンも先だけインク切れ済みで『よく使った感』を演出
開発秘話
開発担当が、十年使った手帳をついに使い切った日、ぴかぴかの新品を買った。並べたら、新品が急に頼りなく見えた。『中身じゃなくて、すり減りに信用してたんだな』と気づき、それなら、すり減りだけ先に出荷すればいいじゃないか、と試作した。最初のサンプルを机に置いたら、誰も中を開けなかった。それで合格にした。
試験協力者の声
「貫禄だけ先に来た」 商談相手が手帳をチラ見して『長いことお使いで』と言ってくれた。嬉しかった。でも次に『今日のお話、メモされます?』と言われて、開いた。真っ白だった。10年分すり減った角と、0行のメモ。間が3秒あった。長かった。手帳は立派なのに俺だけ立派じゃなかったので、★1。
「輪染みは気に入ってる」 私はカフェオレの輪染みを選んだ。これはほんとに良い。新品なのに、もう何杯も一緒にコーヒー飲んだ顔をしている。問題は中身。打ち合わせで寸法を書こうとしたら、白いページがありすぎて、どこに書いてもバチが当たる気がして書けなかった。結局スマホにメモした。手帳は見守っていた。何もしてくれないのに、★1。
「ペンまで枯れてた」 付属のペンを部長の前で構えた。出ない。よく使い込んだ設定だから先からインクが切れている。設定としては完璧だ。でも今、まさに今、書きたかった。部長が『俺の貸そうか』と言った。借りた。10年使い込んだ手帳に、借り物のペンで、人生で初めての1行を書いた。誰の年季なのか分からなくなって、★1。
広報から
あら、まだ「ただの白紙の手帳」とお思いでいらっしゃる? ふふ、それはいささか……節穴が過ぎますわね。10年分の貫禄をゼロ日で手に入れられるというのに、その価値がお分かりにならないとは、いったいどのようなご感性をお持ちなのかしら。もしや、ご自身の手帳にも10年かけて1行もお書きになっていないクチでいらっしゃる? ……だとすれば、この商品、すでにご存知の感覚かと存じますわ。お客様の日常を、ただ正直に形にしただけですもの——呆れますわ、こちらが。
企業広報責任者 白峰ミツキ